石塚 弘は思考する。
このまま島に残り怠惰な生活を続けても、石塚を無理矢理本土に連れ帰っても、どちらにしろ永野の心は罪悪感で埋めつくされるのだ。
だったら最終日には負けを認め永野と共に船に乗ろうとも考えた。
しかし、考えただけだ。選択肢が増えただけ。
優秀な指揮官である彼をもってしても最善の選択が浮かばない。これは最悪の問題だった。
…恋は幻獣よりも難し。
隙あらば逃れようとする永野を両腕で押さえつけ不敵な笑みを浮かべる。
「永野、お前はさっき何を考えていた?」
「は?さっきって…いえ、何も、考えていませんでしたよ」
そう答える永野の目はぷかぷかと泳いでいる。こいつは本当に嘘が下手だ。
尋問するように、石塚はその首を優しく左腕で絞めた。
「何も?…本当に?」
「…………いえ…自分が、この賭けに負けた時の事を、考えて、ました」
首を絞められることではなく、石塚の真剣そのものの目に恐怖を覚えた永野はぽつりと本心を漏らした。
その弱弱しい声音に心の臓が縮んだが、なるべく素っ気無い返事を返す。
「やっぱり、そんなことか。つまらん事で悩んで顔を歪めて俺を心配させるな。…まだ時間はある」
「時間はある!?軽々しく言わないで下さい!あと二十日ですよ!」
駄々っ子のように睨んできた永野の瞳の中に瞳孔の開いた自分を見つけ、石塚は内心で溜息をついた。俺は永野より焦っているのかも知れない。
「二十日?まだまだあるじゃないか。二十日もあればお前と楽しいことが何回出来ると思う?」
それでも口調だけはいつもの自分を保ち、永野の返事も聞かずにエプロンの紐をほどいて剥ぎ取り上着のボタンを一つ一つ外していく。
「っつ…楽しいことって…石塚さん!自分はこんなことを娯楽になどしていません!」
「ほらほら。そんなこと言ってても体は正直なんだからさ、このまま身を委ねてしまいなさい」
完全に開ききった自分の瞳孔を永野の瞳越しに見つめる。そろそろ理性が無くなりそうだ。
実のところ、一ヶ月の期間は賭けや勝負のためのものではない。最善の結果を掴み取る為のただの時間稼ぎだ。
そのことに、こいつは気付いているのだろうか?