隊長日和 . 2

「…時に永野。いつまで立ってるんだ?」

寝そべる石塚の傍らにそれが当然であるかのように直立不動で立つ永野。
装備が花柄エプロンにおたまでなければその格好は中々様になっている。
一応家事は分担して行うことになったものの、何故か食事は永野の分担となった。今は丁度夕飯作りの途中だった。
改めてその格好を視認し軽く吹きだす石塚。
訳が分からないと言った風に永野は眉間を寄せる。

「…うん。実に良いね」
「…何がですか」
「美味しいじゃないか」

主にこの状況、シチュエーションのことらしい。
しかしこれも石塚の刷り込みの成果か、石塚と接するうちに常識から一歩ズレた思考を持つに至った永野は何を思ったのか顔を赤らめる。
笑いの余韻を残したままの声で石塚が隣に座るよう促すと、永野は警戒しながらも渋々それに従った。
開いてるのか閉じているのか良く分からない目を更に細めた石塚は水平線に沈む夕日を眺める。
その隣に見本のような正座で佇む永野も同じ方向に目をやった。

「…綺麗なものだな」
「そうですね」
「お前もそう思うか?」
「ええ。それが何か」

石塚は表情が読まれにくいと評される顔に感謝しつつ、無言で口元を和ませてにっこりと笑った。
…正確に言えばにやりと、勝ち誇ったように笑う。
永野が完全に懐柔される日もそう遠くない。

堪えきれず小さく笑い声を漏らす石塚を見た永野の肌が一気に粟立った。目元が引きつる。

…何か良くない事が起こる。予感とか生温いものじゃない。これは確信だ。俺の第六感がそう告げている。
頭の中で鳴り響く警笛に焦り始めた時。
不意に、膝に置かれた拳に何かが重なった。