夏へのさそい . 4

未知の体験に打ちのめされた永野を見やり、石塚は意地の悪い笑みを消していつもの親しみを抱かせる柔和な微笑みを浮かべた。

「ごめんごめん。ちょっとやりすぎたかな…これくらいしないと、話を聞いてくれそうになかったから」

照れたように、困ったように頭をポリポリと掻く石塚。
永野の警戒心が嘘のようにほどける。良かった、いつもの石塚さんに戻ったんだ。

「こんなことしなくても、自分は貴方の言い分もきちんと聞きます。それくらい把握しておいて欲しいものです」

永野は体制を正座に戻し、石塚は片膝を抱えて座り込んでいる。

「…それはどうかな。君は何事にも熱心すぎて周りが見えていない時がある。それは良い所でもあるんだけどな」

赤子を諭すように、微笑んだまま石塚は永野に説く。

「…はい。肝に銘じておきます」

こくん、と永野が素直に頷く。石塚が更に笑みを深くした。

「しかしですね、石塚さん」
「ん?」
「もうあのようなことは絶対にしないでください。じ…自分に、不用意に近づくようなことは」

永野としてはさり気なく言ったつもりだったが、耳と頬は隠しようが無いほど赤く染まっている。
そろそろ可哀相になってきたので石塚はそれには突っ込まず流すことにした。

「すまない。どうしてもこちらの話を聞いてもらう必要があったからな」

本題に戻る気配を感じ、永野が勢いづく。

「ええ、こちらにも話したい事は沢山ありますよ石塚さん」
「永野、俺はこの島に残るよ」

石塚は正面から永野を見据えて、目を合わせて告げた。
それは宣言だった。
永野は怪訝そうに問う。

「…そんなにこの島が大事ですか」
「何であっても代えの利かない、大切な場所だ。愛しているといってもいい」

照れも臆面もないその言葉に、永野の思考は停止した。
こんな人、どう説得すればいいんだ。