氷の入った麦茶を一気に飲み干し、永野はもう何度目になるかわからない説得を始める。
「自分は、石塚さんに戻ってきて欲しいのです。ただそれだけです」
時間稼ぎにもならなかった麦茶を石塚は見つめた。
「あなたの実力は上官からも一目置かれています。戻ってきてくだされば、自分は全力であなたを歓迎します」
「…君は、死神を喜んで迎えるつもりかい?」
自虐的な台詞を軽く吐き出すが、彼の目は穏やかなままだ。
「そんなものはあなたの実力を妬んだ無能な者たちの恨み言です。気にすることはありません」
「でも、結果は君も知っての通りだよ。失った部下の数は計り知れない」
思いつく限りに言葉を尽くしても、彼は気持ちを変えそうにない。
口下手な自分を永野はこれほど悔やんだことは無かった。
「自分は、それでもこうして生き残りました…あなたのもとで!あなたの指揮が、私を救ったのです!」
精一杯の感謝と思いをぶつける。しかし、
「……それは、お前の努力と少しの運がもたらした結果だ。それらがお前が死の受け入れず跳ね返したんだろう」
笑みすら浮かべて石塚は静かに答えた。
永野は恥を覚悟しながら、それでも叫ぶ。
「いつまで自身を虐げるおつもりですか!あなたは自分の知る他の誰よりも優秀な方です!
こんな…平和ボケだらけの島に、あなたが骨を埋める意味は何一つありません!」
その言葉のどれかが胸にひっかかったのだろう、石塚から笑みが消えた。
永野の勘が反応した。
嫌な、予感がする。